おるたネットニュース vol.11 2015年4月17日配信
コラム:「評定」するのは怠慢な知性
古山明男
いわゆるオルタナティブ教育に共通した特徴の一つに「評定をしない」ことがあります。評定をするかしないかは、教育が「与えられたものの達成」になるか、「生徒の学びの援助」になるかに、決定的な影響があります。
私も小学生でした。「ツーシンボ」というものがありました。そこには、ものすごく重要なことが書かれているのでした。人に見られないように、小さくそうっと開いて見るものなのでした。親も「ツーシンボ」をとても重要なものと考えています。親に叱られるのが怖くて親に見せない子もいます。
中学になると、「ツーシンボ」よりも試験の点数と順位のほうが重要でした。高校では絶対評価になりました。いずれにせよ、評定はとても重要なものでした。いつしか、学校というのは評定をつけられるために行くところ、ということを刷り込まれました。
その後、私塾をやるようになりました。生徒を評定しても無意味でした。マンツーマンか少人数で教えていましたので、それぞれの生徒のことは、発想の仕方まで掴んでいます。そこに、「キミはAだ、Bだ」と言ったところで、「じゃあ、どうしたらいいのか」はわからない。生徒がお互いをランクで見るようになって、落ち込ませるか天狗にさせるかします。そんなことより、「ここの計算は、もうできているよ。先に進んだら」とか「この本は、おもしろいぜ」と伝えたほうが、意味があります。
大人になって、世の中を見回したら、評定というのは大組織に特有の人事管理方法でした。評定と給与・人事を組み合わせて、期待された仕事に励むようにするのです。学校教育には、公務員や大会社の組織原理が無自覚に持ち込まれています。
もちろん、評定すべてがいけないわけではありません。専門教育であれば、評定は必要です。いいかげんな知識・技能の人を医師やパイロットにしてもらっては困ります。
しかし、評定の発想を、子どもの発達・生育にあてはめたとき、教育の堕落が起きたのだと思います。評定におののくように教育したとき、教育は権威主義の罠にすっぽり落ちました。権威主義の高みから、「子どもに自発性がない、創造性がない」とわめいても、もう遅い。子どものことを評定できるほど、大人は賢くないです。「キミはAだ、Bだ」と言って子どもを動かそうとするのは、怠慢な知性です。オルタナティブ教育に評定がないのは、子どもの学びを尊重して教育を創れば、自然にそうなる、ということです。
論説:スモールスクールの時代がやってくる・その5 イギリスのスモールスクール
辻 正矩 箕面こどもの森学園
イギリスの教育法には「義務教育の年齢に達している子どもをもつ親は、その子どもに合ったフルタイムの教育を学校に定期的に行かせることで、またはその他の方法(or otherwise)で与える義務がある。」と定められています。「その他の方法」という部分は、王室や裕福な家庭の子どもは学校にやらずに家庭教師をつけていたということから付け加えられたといわれています。この法律があるためイギリスでは多様な教育が行ないやすく、最低5人の子どもが集まれば正規の学校として認められるそうです。
1980年代初めの頃、ノースデボンのハートランド村の親たちが中学校を創ろうと立ち上がりました。というのは、彼らは通学に往復2時間もかかる校区の中学校に子どもを通わせたくなかったし、自分たちが住むコミュニティと関わらせながら子どもを育てたいと考えたからです。彼らは、校舎用の建物を買い取り、教師を雇い、運営資金を集め、小さな学校を開校しました。その学校の名前はThe Small Schoolと名付けられました。
この学校では、生徒と先生はお互いをファーストネームで呼び合い、生徒と教師,保護者はどのように学校を運営したらよいか話し合い、生徒たちは交代で昼食を作ったり、校内の清掃をしたりしました。この学校では、頭脳と手とハートをもったwhole person(全体的人間)の教育が強調されているからです。教科の学習のほかに、家を建てる、服を縫う、野菜を育てるといったことも学びます。それらのスキルは、彼らが生きていく上で役立つからです。また、音楽や演劇、芸術、工芸品づくりなどを通して、子どもたちの創造する力を高めることも重視されています。
この学校ができたとき、国内ばかりでなく海外でも関心が持たれたため、この学校の活動の価値をもっと広く普及させようという目的で、Human Scale Education(HSE)という団体ができました。HSEは、「小規模であることは、子どもたちが自信に満ちて工夫に富んだ人、互いを尊重し世話しあうような人になるような人間関係を形成するのに役立つ」と考えています。この団体のモットーは、「人間が最重要な教育」というもので、これはE.F.シューマッハーの著書「スモール・イズ・ビューティフル ー人間が最重要な経済ー」にちなんだもの。HSEは、自分たちの学校を創りたいと思う親や教師のグループに助言をしたり、既存のスモールスクールを支援したり、公立学校がもっと小さな単位で運営できる方法を見出すのを援助したりしています。このような組織が日本にもほしいものです。
イベント情報
未来教育ワークショップ@築地本願寺 -開かれた寺院で考える学びのコミュニティ造り-
日時:2015年4月18日(土)10:00~17:30
場所:築地本願寺(東京都中央区築地3ー15ー1)
定員:60名(先着順)
参加費:1,000円(税込)
内容詳細・申込み:
http://kokucheese.com/event/index/265786/
第3回これからの「子育て・教育」の話をしよう会@伊那
ゲスト:ICT活用教育第一人者・京都府公立小学校教諭:広瀬一弥さん
日時:2015年4月18日(土)13:30~16:30
場所:コミュニティ・カフェ セジュール(長野県伊那市荒井1-13)
定員:25名(要予約)
参加費: 一般 1,000円 学生 500円+ケーキセットの注文をお願いします。
申込み:【要予約】申込先 浜大輔 090‐4950‐2615
inadani.maaruigakkou@gmail.com
おるたねカフェ、イエナ・カフェ共催「学校の作り方」
日時:2015年4月25日(土)14:30~17:00
場所:浦安市民プラザwave101 サロン6 (京葉線新浦安駅)
内容:草の根で学校を創っている人たち、創ろうとしている人たちのための、情報交換と相互支援の場です。関心を持つ一般の方たちも歓迎です。
定員:30名
参加費:500円
申込み:山田順子 chaochoco925@gmail.com まで
編集後記
文科省の有識者会議と平行して、国会で議員立法の動きもあるようです。これらの国の動きには目が離せません。
(きむさと)