多様な教育を推進するためのネットワーク / Network for the Promotion of Educational Diversity

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貧困家庭児

貧困家庭児(貧困などの原因により家庭環境に問題がある子ども)

2008年のリーマン ・ショックを契機とした世界的な金融危機以来、貧困問題は大きくクローズアップされてきましたが、実はそれより10年ほど前から「格差社会」として問題視され始めていました。

2007年に堺市健康福祉局の道中隆理事が発表した調査結果によると、生活保護を受給している世帯主の約25%、母子世帯では約40%が、その親も生活保護を受けていたということです。そして生活保護受給者の世帯主の最終学歴が、中卒か高校中退が約73%であることから、貧困家庭の子どもが低学歴で社会に出、低学歴ゆえに十分な収入が得られず、また貧困に陥るという「貧困の世代間連鎖」の図式が明らかになりました。生活保護の受給世帯と一般世帯の差は高校への進学率に如実に表れ、全体の進学率が98%程ある中で、生活保護世帯の進学率は70~80%に留まっています。

そうした悪循環を断ち切ろうと、国はそのような子どもたちの進学支援に乗り出し、2009年には学習支援費の上乗せや、地方自治体が進学支援に取り組むと通常1/4の生活保護費の地方負担分をゼロにするなどの取り組みを始めました。

それが後押しになったのか、ここ数年、生活保護世帯の中学3年生への学習支援活動(高校受験のための勉強を教える無料か低料金の塾開設)を行うところが多くなってきたようです。特に自治体が主体となって、実際の運営は地域のNPOなどに委託するケース(*1)が増えてきました。その他には、1987年から始まった江戸川中3勉強会を最古参とする生活保護のケースワーカーがボランティアで運営するところ(*2)、NPOが始めたケース(*3)、個人塾を発展させたもの(*4)、スクールソーシャルワーカーが主体となって社会福祉協議会が後押しをしているところなど、さまざまです。

学校で勉強するだけではダメだというのは考えてみればおかしな話ですが、学習塾に通うなどしないと高校入試に合格するのが難しいという現状があるからです。

しかしながら、勉強の習慣や意欲をあまり持ち合わせていない子どもに対して、1回2時間程度で週に1-2回くらいの勉強では、十分な効果を期待するのは難しいようです。また今後は、対象を生活保護世帯から広げていくこと、高校中退防止も含めること(すでに実施しているところもあります)、学校や教育委員会との連携、などが課題になりそうです。

このように貧困家庭の子どもたちへの学習支援活動が広がることは大変喜ばしいことですが、そうした子どもたちが高校で学ぶために必要なのは学習面の支援だけではありません。貧困家庭の保護者には、私立高校へ子どもを通わせる余裕が無いのはもちろん、公立高校であっても修学旅行、学用品、教科外活動費、制服などにかかるお金がかなりの負担になっているという問題があります(日本では義務教育でも無償化された公立高校でも諸経費は自己負担です)。さらには、経済的な困窮に端を発した両親の不和・離婚、家庭の崩壊などによって、家族の愛情や支援が十分に得られず、精神的に不安定になる子どもが多いことが最大の問題だと言えるでしょう。生活保護を受けることに対する負い目、貧困やひとり親などに起因する自己肯定感のなさなど、心のケアや精神面に配慮した対応が必要なのです。

「高校に合格するための勉強を教えることが目的ではあるけれど、まずはここに通ってくれないとしょうがないので、楽しい場づくりや子どもの話を聞いてあげることを第一に考えている」というある支援者の言葉に表されるように、子ども一人一人との信頼関係ができ、心の安定が得られて初めて子どもの意識が勉強に向かうのです。

こうしたところに来る子どもには、分数の計算や九九もおぼつかないような子どももいます。また、不登校の子ども、精神・発達障害の疑いのある子ども、外国籍の子どもなども無料や低料金だからと通ってきているそうです。このような学習支援の場が、学校教育から排除され、しかも貧しいために塾や専門の機関にも通えない子どもたちの受け皿・セーフティーネットになっているというのが現状なのです。

私たちは、憲法や教育基本法に謳われた子どもたち一人ひとりの教育を受ける権利に基づき、「排除されることのない学校教育」という根本的な解決策を同時に目指さなければならないのだと思います。

  • 脚注

    *1 ) 横浜市、埼玉県、相模原市など(2011年初時点、以下同)

    *2 ) 大田区、横浜市など

    *3 ) 八千代市、釧路市-冬月荘など

    *4 ) 江東区など

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